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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)16441号 判決

原告(反訴被告)

小嶋重久

被告

神錬一郎

主文

一  原告(反訴被告)の請求を棄却する。

二  原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し、金一二万六五三一円及びこれに対する昭和五九年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は本訴反訴を通じこれを二分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 被告(反訴原告。以下「被告」という。)は、原告(反訴被告。以下「原告」という。)に対し、金五〇五万二六八二円及びこれに対する昭和六二年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 原告は被告に対し、金一〇三六万七四七三円及びこれに対する昭和五九年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 事故の発生(以下、次の事故を「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和五九年二月二〇日午後六時二分頃

(二) 場所 東京都世田谷区給田三丁目一三番一六号先路上

(三) 加害車両 原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)

(四) 被害者 被告

(五) 態様 歩行中の被告に原告車が衝突

2 損害の填補

原告は被告に対し、昭和六一年一二月一八日以前に、本件事故による損害賠償金として、一四〇三万九四一〇円を支払った。

3 しかし、原告が被告に対し賠償すべき金員は五一一万六七〇五円を超えない。

よつて、原告は被告に対し、不当利得返還請求権に基づき原告の支払金のうち五〇五万二六八二円及びこれに対する本訴訴状送達の翌日である昭和六二年二月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認め、3は争う。

三  抗弁

1 責任原因

原告は原告車を自己のために運行の用に供していた。

2 被告の受傷と治療経過

(一) 傷害の内容

頭部外傷、頭打撲、頸椎捻挫、右手挫傷、右下腿部打撲傷、腓原筋血腫

(二) 治療経過

(1) 至誠会第二病院に昭和五九年二月二〇日から同年三月三日まで通院(通院実日数四日)

(2) 小泉整形外科医院に同年二月二三日通院、同月二四日から同年四月九日まで入院、同月一〇日から昭和六〇年二月一九日まで通院(通院実日数二三三日)

(3) 斉藤整骨院に昭和六〇年二月二一日から同年六月五日まで通院(通院実日数六七日)

(4) 東京慈恵会医科大学附属病院(以下「慈恵医大病院」という。)に昭和六〇年六月七日通院

(5) さわい病院に昭和六〇年六月一〇日から同年七月一五日まで入院

(6) 杏林大学医学部附属病院(以下「杏林大病院」という。)に昭和六〇年八月六日から昭和六二年三月三一日まで通院

3 損害

(一) 治療費 三五三万一一五〇円

(1) 至誠会第二病院分 五万二〇〇〇円

(2) 小泉整形外科医院分 二〇九万四七五〇円

(3) 斉藤整骨院分 二六万五八〇〇円

(4) 慈恵医大病院分 一万八四六〇円

(5) さわい病院分 一〇〇万六五二〇円

(6) 杏林大病院分 九万三六二〇円

(二) 通院費 三〇万一八八〇円

小泉整形外科医院及び斉藤整骨院通院分

(三) 休業損害 一三二二万三八五三円

被告は本件事故当時、株式会社一龍グループに在籍し、屋台のラーメン屋として街頭販売を行い、一か月平均三五万四二四二円の収入を受けていた。ところが、被告は本件事故による傷害のため、本件事故発生の日から昭和六二年三月三一日までの三年一か月と一〇日間就労が不能となり、収入が得られなかった。したがって、被告の右期間の休業損害は三五万四二四二円に三七・三三を乗じた一三二二万三八五三円となる。

(四) 入通院慰藉料 六〇〇万〇〇〇〇円

(五) 損害合計 二三〇五万六八八三円

(六) 損害填補金一四〇三万九四一〇円を控除 九〇一万七四七三円

三  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は認める。

2 同2のうち(一)及び(二)(1)ないし(5)は認める。(二)(6)について、被告が通院した事実は認めるが、昭和六〇年一〇月中旬以降の通院治療と本件事故との因果関係は否認する。

3 同3について、(一)のうち(1)ないし(5)は認め、(6)は知らない。(二)は認める。(三)は五三〇万円(昭和六〇年七月三一日までの損害)の限度で、(四)は一一九万四〇〇〇円(昭和六〇年一〇月上旬までの通院治療による慰藉料)の限度で認め、その余は否認する。(五)、(六)は争う。

四  再抗弁(過失相殺)

本件事故は、原告車が本件事故現場を烏山方面から調布方面に向かつて進行し、左前方の歩道を原告車と同方向に向かつて歩行していた被告を追い抜こうとした時に、突然、被告が原告車に背を向けたまま道路右側に向かつて飛び出してきたため、原告が急制動の措置を講ずるも間に合わず衝突したものである。以上の通り本件事故は、被告が原告車の直前で車道に飛び出した重大な過失に起因するものであるから、五割の過失相殺がなされるべきである。

五  再抗弁に対する認否

否認する。

(反訴)

一  請求原因

1 事故の発生

本訴請求原因1と同じ

2 責任原因

本訴抗弁1と同じ

3 被告の受傷と治療経過

本訴抗弁2と同じ

4 損害

(一) 未払いの損害金 九〇一万七四七三円

本訴抗弁3と同じ

(二) 弁護士費用 一三五万〇〇〇〇円

よつて、被告は原告に対し、損害金一〇三六万七四七三円及びこれに対する事故発生の日である昭和五九年二月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1及び2の事実は認める。

2 同3の認否は本訴抗弁2の認否と同じ。

3 同4のうち、(一)の認否は本訴抗弁3の認否と同じ。(二)は争う。

三  抗弁(過失相殺)

本訴再抗弁と同じ。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

証拠は本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

理由

一  事故の発生(本訴請求原因1・反訴請求原因1)、責任原因(本訴抗弁1・反訴請求原因2)は当事者間に争いがない。

二  被告の受傷と治療経過(本訴抗弁2・反訴請求原因3)

傷害の内容(本訴抗弁2・反訴請求原因3の(一))並びに治療経過(同(二))のうち(1)ないし(5)及び(6)の被告が杏林大病院に通院した事実は当事者間に争いがなく、右事実を成立に争いのない甲第五号証並びに乙第一一号証の一、二、第一二号証及び第一三号証、原本の存在と成立に争いのない甲第四号証及び第六ないし第一一号証並びに乙第一〇号証及び第一六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一四号証の一ないし四並びに被告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  被告は本件事故当日の昭和五九年二月二〇日、同月二一日、同年三月二日、同月三日、至誠会第二病院に通院し治療を受けた。診断名は、頭部外傷、右足打撲であり、事故当日には意識喪失があり、顔面には腫脹、擦過傷があつたが、レントゲン検査、脳波検査とも異常はなかつた。被告は、同年二月二三日に、小泉整形外科医院で診察を受け、翌二四日から同病院に入院した。同病院での診断名は頭部外傷、頸椎捻挫、右手挫創、右下腿分打撲、腓腹筋血腫であり、同年四月九日まで入院し、さらに昭和六〇年二月一九日まで通院を続けたが、頸部痛、上肢のしびれ等の症状はなお軽快しなかつた。

2  そこで被告は、斉藤整骨院に昭和六〇年二月二一日から同年六月五日まで、慈恵医大病院(整形外科)に昭和六〇年六月七日通院した後、さわい病院(整形外科)に昭和六〇年六月一〇日から同年七月一五日まで入院した。同病院初診時には、頸項部痛、上肢のしびれ、指のしびれ、肩こり、知覚低下等の自覚症状があつたが、レントゲン検査その他の検査で他覚的所見はなく、理学療法、ハリ治療を続けたところ、全身状態は良好になり自覚症状も初診時よりは訴えは少なくなり、同病院の医師は「軽快の上退院す」と診断し、退院後は車両運転以外の就労は可能であると判断した。この頃になると妻も被告に対し、本当に痛いのか、怠けているのではないかなどと言うようになつていた。

3  ところが、被告は頭部痛、頭重感、上肢のしびれ等の自覚症状が消失しないため、友人の勧めにより神経科の治療を受けることにし、昭和六〇年八月七日から杏林大病院の精神神経科に通院し始めた。同日の診断ではいわゆる補償神経症ではないかと疑われたため、以後通院し診察や各種検査を受けた。被告は全体の圧迫感と頭重感等、不眠、いらいら、不安、働かなくてはという焦り等を訴え、妻は同病院の医師に対し「前は朗らかであつたが昭和五九年九月からとくに急に怒つたりするようになつた。ほとんど家で寝ている。」等と語つた。被告に施行された心理テストによれば、Y―Gテストでは、「抑うつ、気分易変、劣等感、神経質、主観的などの特性が強い。情緒不安定。社会的接触を好まない。内向的、非協調性、主観性が目だつため、非常に社会不適応的。逃避的、防衛的になつているのか。」とされ、MMPIテストでは、「精神病的側面はないが心気症的傾向が強い。逃避的態度が反映しているのではないか。」とされ、SCT検査では、「教養レベルは非常に低く、無気力、断片的な内容の短文のみ。すべてが嫌、面倒だ、死にたいという気分が全体を貫いている。体調さえよければ頑張つて仕事をしたいという自覚はあるよう。抑うつ状態であるが、うつ病によるものか後遺症を主とした反応的、逃避的なものか不明確。」とされた。また、臨床検査により慢性肝炎と診断された。

右診察や検査の結果、同年一〇月九日に、被告の傷病名を心気抑うつ状態、慢性肝炎とし、頭部打撲、頸椎捻挫による頭重、しびれ、不安、抑うつ、自律神経症状があり、向後数か月の休業を要するとの診断書が出された。以後、右治療のため、被告は同病院に通院を続け、カウンセリングや薬物療法(抗うつ剤、抗不安剤、睡眠薬、自律神経調整剤、ビタミン剤、下剤、肝庇護剤)を受け、しばらくの間は症状に変化がなかつたが、昭和六一年三月になると被告は上機嫌になり、「楽になつた。不安が浮かんでも自分でコントロールできるようになつた。」と言うようになり、同年四月には周囲から元気になつたと言われるようになり、同年五月には心気症的な訴えをすることがなくなり、薬物は漸減されていつた。そして同年一〇月の時点でほぼ精神症状は軽快、肝機能も正常化し、昭和六二年一月二八日で精神神経科への通院を終え、同月六日からは仕事もするようになつた。

昭和六〇年八月六日からの杏林大病院精神神経科への通院実日数は四六日であつた。

三  因果関係と損害賠償額の限度

1  二で認定した事実によれば、被告は本件事故により頭部外傷、頸椎捻挫、右手挫創、下腿部打撲等の傷害を受けたこと、右傷害はレントゲン検査等による他覚的所見が認めれなかつたが原告の自覚症状はなかなか改善しなかつたこと、さらに右傷害の症状に被告の前記検査により認められる性格が影響して心気抑うつ状態になり自覚症状が長期化し、精神神経科による治療により昭和六二年一月になつて治癒したことが認められ、そうすると、至誠会第二病院通院から杏林大病院通院までの間の被告の症状及び治療はすべて本件事故と因果関係があるといわなければならない(ただし慢性肝炎については本件事故との因果関係を認めるに足りる証拠がない。)。

2  しかしながら、前記のとおり被告が本件事故により受けた傷害は当初の診断ではそれほど大きなものではなかつたこと、さわい病院を退院した昭和六〇年七月一五日頃には状態は良好となつて、整形外科的には軽快し就労もほぼ可能とされていたこと、その後通院した杏林大病院では精神神経科による心気抑うつ状態に対する治療がほとんどであること、同病院で治療を受けた慢性肝炎については本件事故との因果関係が認められないこと、被告が心気抑うつ状態になつたのは被告の前記性格等の心因的要因が大きく影響していることが認められるのであり、このような事情のもとでは損害を全部原告に負担させることは公平の理念に照らして相当でなく、損害賠償額を定めるに当たつては民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、その損害の拡大に寄与した被告の事情を斟酌することができるというべきである。前記事実関係のもとでは、原告が負担すべき損害賠償額(慰藉料、弁護士費用を除く。)は、本件事件発生の日からさわい病院を退院した昭和六〇年七月一五日までに発生した損害については全額、同月一六日から杏林大病院通院を終了した昭和六二年一月二八日までに発生した損害についてはその六割の限度とするのが相当である。

四  過失相殺(本訴再抗弁・反訴抗弁)

1  成立に争いのない甲第一及び第二号証並びに乙第一号証及び第一八号証の一ないし一一並びに原告及び被告各本人尋問の結果(いずれも後記信用できない部分を除く。)によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は烏山方面と調布方面を結ぶ道路(旧甲州街道)上であり、右道路は幅員九・七メートル、片側一車線でセンターラインが引かれ、両側にそれぞれ幅一・四メートル程度の路側帯があつたが、歩道は設置されていなかつた。道路両側には商店、住宅等が立ち並び、本件事故当時は薄暗かつたが、雨が降つておらず路面は乾燥し、街路灯がついていた。また、右道路の最高速度は三〇キロメートルに制限されていた。

(二)  原告は原告車を烏山方面から調布方面に向け時速約三五ないし四〇キロメートルで自車線中央を走行させていたところ、道路左側にある中村酒店から被告が原告側(烏山方向)に対し背中を向けて調布方向に斜めに出てくるのを約一〇メートル手前で発見し、急制動の措置を採つたが間に合わず、原告車左前部を被告に衝突させた。右衝突により被告の背中が原告車のボンネツト左部分に、被告の後頭部が原告車フロントガラスにぶつかり、被告は衝突地点の左前方である車道と路側帯との境界付近に倒れた。

(三)  被告は、中村酒店を出て、調布方向に斜めに歩行し、路側帯を越えた直後、原告車と衝突した。被告は路側帯を超えて出るに際して、通常の速度で歩行していたが、右後方の確認をしなかつた。

(四)  本件事故現場付近の烏山方面から調布方面への見通しは良好であり、本件事故当時とくに視界を妨げるものはなかつた。中村酒店は道路端から一ないし二メートル後退した位置に建てられ、烏山方面から進行した場合、同店の入口を見通すことも可能であつた。

2  右認定に対し、原告は被告が左から飛び出してきた旨供述し、また被告は道路端の路側帯内を歩行したいたかのように供述するが、いずれも前記認定事実に照らし信用することができず、他に1の認定を覆すに足りる証拠はない。

3  1で認定した事実によると、原告は速度違反及び前方の注視不十分の過失により本件事故を発生させたものと認められるが、他方、被告も道路右後方の安全を確認しないまま不用意に路側帯を越えて斜めに車線上に出た過失を認めることができる。そこで、原告、被告双方の過失の内容、とくに本件事故現場の見通し、環境等を考慮すると、過失相殺として原告が被告に対して損害賠償すべき額から一割を減額するのが相当と認められる。

五  損害

1  本件事故発生の日から昭和六〇年七月一五日までの損害(慰藉料を除く。)

(一)  治療費 三四三万七五三〇円

右期間の治療費(至誠会第二病院分からさわい病院分まで)が三四三万七五三〇円であることは当事者間に争いがなく、本件事故による損害と認められる。

(二)  通院費 三〇万一八八〇円

右期間中の通院費として三〇万一八八〇円を要したことは当事者間に争いがなく、本件事故による損害と認められる。

(三)  休業損害 五九七万四八八一円

被告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第四号証並びに二で認定した事実によれば、被告は本件事故当時、株式会社一龍グループに在籍し、屋台のラーメン屋として街頭販売を行い、一か月平均三五万四二四二円の収入を受けていたこと、ところが本件事故による傷害のため、本件事故発生の日から昭和六二年一月五日まで就労ができず収入が得られなかつたことが認められる。したがつて、本件事故発生の日である昭和五九年二月二〇日から昭和六〇年七月一五日まで(一年四か月と二六日)の休業損害は、次の計算式のとおり、五九七万四八八一円であると認められる。

(計算式)

三五万四二四二×(一六+二六÷三〇)=五九七万四八八一

(四)  合計 九七一万四二九一円

2  昭和六〇年七月一六日から昭和六二年一月二八日までの損害(慰藉料を除く。)

(一)  治療費 九万三六二〇円

被告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一九号証の一ないし二六によれば、被告は杏林大病院通院中に被告主張額九万三六二〇円を下らない金額を治療費として支出したことが認められ、右は本件事故による損害と認められる。

(二)  休業損害 六二六万二〇八四円

1(三)で認定した事実によれば、昭和六〇年七月一六日から昭和六二年一月五日までの(一年五か月と二一日)休業損害は、次の計算式のとおり、六二六万二〇八四円であると認められる。

(計算式)

三五万四二四二×(一七+二一÷三一)=六二六万二〇八四

(三)  合計及び減額

(一)及び(二)の合計額は六三五万五七〇四円となるところ、前記のとおり原告が負担すべき限度はその六割が相当であるから、原告が賠償すべき額は三八一万三四二二円と認められる。

3  慰藉料 二二〇万〇〇〇〇円

被告の傷害の内容、治療経過、入通院期間、三2で認定した事情その他諸般の事情を考慮すると、慰藉料は二二〇万円が相当と認める。

4  過失相殺

1ないし3の損害を合計すると一五七二万七七一三円となるところ、前記のとおり過失相殺として一割を減額すべきであるから、原告が賠償すべき額は一四一五万四九四一円となる。

5  損害の填補

損害の填補として一四〇三万九四一〇円が支払われたことは当事者間に争いがないから、これを控除すると、損害額は一一万五五三一円になる。

6  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、被告は本件訴訟のために弁護士を委任したことが認められるところ、認容額その他の事情によれば弁護士費用のうち原告が負担すべき額は一万一〇〇〇円が相当と認められる。

7  合計 一二万六五三一円

五  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないので棄却し、被告の反訴請求は損害金一二万六五三一円及びこれに対する事故発生の日である昭和五九年二月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中西茂)

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